有名なパリの地下鉄。いまその構内ではフランスの若きミュージシャンたちが、ライヴで生の音を響かせています。しかし、乗車したくても張りめぐらされたパリのメトロポリタンにはナビゲーターが必要なのも事実。このコーナーではシャンソンの水先案内人を大野修平がつとめます。
この「ディスクガイド」は、サーバーの容量の関係で6ヶ月ごとに削除いたしますので、必要な方はご自分で保存してください。(管理人)
 
月刊「サ・ガーズ」 2000年1月号

     

Nilda Fernandez
《Mes hommage…》
(Scalen International)
024702

〈曲目〉
(カッコ内はオリジナル歌手名)

  1. La fleur aux dents
    (Joe Dassin)
  2. J'y pense et puis j'oublie
    (Claude Francois)
  3. Dans la maison vide
    (Michel Polnareff) 
  4. Dis,quand reviendrastu?
    (Barbara)
  5. Ma biche
    (Frank Alamo)
  6. Sacre Geranium
    (Dick Annegarn)
  7. *Ma mome
    (Jean Ferrat)
  8. Les anarchistes
    (Leo Ferre)
  9. *En mediterrannee
    (Georges Moustaki)
  10. La terre promise
    (Johnny Hallyday)
  11. Qui saura
    (Mike Brandt)
  12. La ballade de Johnny Jane
    (Jane Birkin)
  13. Il n'y a plus d'apres
    (Juliette Greco)
  14. Senorita
    (Christophe)
  15. La maison pres de la fontaine
    (Nino Ferrer)

*ジャケットはこのように印刷されているが、実際は(7)と(9)が入れ替わっている。

 

 スペイン・マドリッド出身のニルダ・フェルナンデスのニュー・アルバム。タイトルは「僕のオマージュ」。何に対するオマージュだろうか。曲目を見ればなるほどとうなずける。1960年代・70年代のシャンソン・フランセーズ、ポップスに捧げられたものだ。
 アメリカ・インディアンとの出会いから生まれた名作アルバム「イヌ・ニカム」(彼らの言葉で「人間は歌う」という意味)で、ニルダはこう歌った。「すべての人間の類似性を語るために、僕は道を続ける」。次に発表されたアルバム「カステラール704」は、スペイン内戦が勃発した1936年に射殺された詩人フェデリコ・ガルシア・ロルカの作品にニルダが曲をつけたものだった、いつも何かしらの主張をアルバムに込めているニルダ。が、ここでは自分の作品は1曲も歌っていない。
 しかも、取り上げられた曲は多種多様、はっきり言って種々雑多。ひとつの傾向に固まっていない。いろいろなスタイルの歌に耳を傾けていたことがうかがわれる。僕たちと似たような音楽の楽しみ方を、ニルダもしていたんだな、と思う。
 60年代、70年代のヒット・パレードの観を呈する選曲で、どれもポップな仕上りになっている。バルバラの「いつ帰って来るの」(4)や、ジェーン・バーキンの「ジョニー・ジェーンのバラード」(12)など、女性みたいな高音が得意のニルダならではのレパートリーと言えるだろう。
 シャンソン・フランセーズが装いを変えてゆく時期の作品が選ばれている。“サン=ジェルマン=デ=プレの<RUBY CHAR="女神","ミューズ">”と呼ばれたジュリエット・グレコは、この伝説の地と左岸派のシャンソンの黄金時代への惜別の情をこの歌に託した。「サン=ジェルマン=デ=プレには/もう何もない/明後日も 午後もない/あるのは今日だけ」(「あとには何もない」13)。温かいトランペットの音色のイントロに続いて、グレコより少し速いテンポでニルダは歌う。
 同じ1960年、ジャン・フェラが歌った「小さな愛」(7)。パリの町工場で働く娘との慎ましやかな恋物語。その娘のことをフェラはいとしさを込めて「マ・モーム」(僕の彼女)と呼んだ。くしくもこの同じ年、レオ・フェレは「ジョリ・モーム」を発表している。こちらはセーターの下は裸という娼婦を歌ったものだった。
 そのフェレが69年発表のアルバムに入れていたのが「アナーキストたち」(8)。独裁者フランコ総統治下のスペインに生きたアナーキストたちへの共感を、フェレは壮麗なオーケストレーションに乗せて歌った。ここでのニルダはピアノ1本で、(後にオルガンも加わるが)抑え気味に、しかしきっぱりと美しく歌う。
 ニルダ・フェルナンデスのユニークな声と感性を通した、ノスタルジックなヒット曲のプロムナードを進んで行くうちに、彼への親近感が増してくるアルバムだ。

   


 

 

 
ミシェル・ルグラン
「ルグラン・シングス・ルグラン 〜おもいでの夏」
(MSI MSIF-9685)

〈曲目〉

  1. おもいでの夏
  2. 心の絆
  3. 海底の城
  4. 初恋
  5. 恋のテーマ
  6. ジャヴァをもう一度
  7. 愛のおもかげ
  8. 瞳の中に
  9. 愛の閃く時
  10. ピカソ・サマー
  11. 逃走狂騒曲
  12. 亡き友に
  13. 愛のメロディ
  14. 探求者
  15. サンチアゴの近くで
  16. 愛と死
  17. イルカのウーム
  18. タヒチの男
  19. 王子と王女の秘密の夢
  20. 教えて
  21. 将軍夫人
  22. 冬の子どもたち
  23. 何もかも知っている

  

 数々の映画音楽の作曲家として知られるミシェル・ルグランのヴォーカル集。1971年発表のアルバム《MICHEL LEGRAND》をベースに、これまでアルバム未収録だった作品を加えている。(21)〜(23)はボーナス・トラックで、まったくの未発表曲。これらを含めて、大部分が本邦初CD化。
「パリの空の下」や「ああ、白い葡萄酒」などのシャンソンの作詞家、ジャン・ドレジャックとの共作が多い。非凡な二人が織りなすポエジーと音楽の世界。ルグランのユニークな歌声も印象的だ。

  


 

 

 

「フレンチ・フィルムノワール・
 アンソロジー」

 vol.1 MSI MSIF-9687

 vol.2 MSI MSIF-9688

  

 ギャングたちが主人公となっている映画、フィルムノワール。犯罪者には違いないけれど、独自の男の美学にこだわりながら生き、死んでいく彼らの表情や後ろ姿に危険な香りと、ある種のカッコ良さが漂う。
 そんなフィルムノワールのテーマ曲や挿入曲を集めたCDが出た。vol.1にはハーモニカが奏でるメロディーが耳に残る「グリスビーのブルース」、アズナヴールが出演していた姿が思い出される「ピアニストを撃て」、初ディスク化された「墓場なき野郎ども」など全30曲を収録。
 vol.2ではベルモンド主演の「警部」、ジャン・ギャバン、アラン・ドロン最後の共演「暗黒街のふたり」、イヴ・モンタン、ブールヴィル、ドロン、フランソワ・ペリエが男の意地を賭けて争う「仁義」など27曲が楽しめる。