これまでにレ・ゼル Les Elles、パリ・コンボ Paris Comboといった個性の強いグループのCDをリリースしてきたブシュリー・プロデュクシオンから、またまたユニークなデュオ、レ・ベル・リュレットが登場。
マルティーヌ・ドゥラノワMartine Delannoy はヴォーカル、マティルド・ブロール Mathilde Braureはヴォーカルとアコーディオン、それに作詞・作曲も担当している。この二人、自分たちの声とアコーディオンの伴奏だけでステージを務める。そのスタイルをこのCDでも貫いている。さぞ退屈だろうって? とんでもない。互いによく似た彼女たちの声と、三番目の声とも言えるアコーディオンが織りなす音楽世界は豊かだ。その音色はメロディーを歌うのと同時に、彼女たちの呼吸であり、胸の高鳴りや嘆息でもある。
二人はフランス北部ノール県、ヴァランシエンヌ出身。昔から石炭採掘が主な産業として知られている地だ。マティルドとマルティーヌは、当地の鉱山のなかや坑夫たちの日常生活に歌のアイディアを見つけ出した。2曲目の「恐怖は俺たちを尻込みさせない」では、坑内に入って行く男たちをとり上げる。「並んで大地の窪みに降りて行こう/俺たちの格闘は埃を舞い上がらせる」。そしてルフランにこうある。「毎日毎日 綱の上に人生が続いていく/それでも恐怖は俺たちを尻込みさせない/深淵の縁で硫黄が匂う時に」。
そうした男たちの伴侶にも目が向けられている。6曲目の「炭坑夫の妻たち」がそれだ。「汗の匂いのする花々/昼も夜も/不運に鼓動する心臓/それはかまどと煤」。彼女たちにも辛い労働の毎日が待ち受けていることを見据える。ルフランはこう続く。「炭坑夫の妻たち/労働者の妻たちは/恨みも抱かず/心を与える」。男たち同様、女たちも自らの境遇と向き合い、逃げることなく生きる姿が描かれる。地にしっかりと足の着いた人生。
ピエール・バシュレは1982年に「坑夫たち」を歌い、この職業に就く者たちを賞賛した。レ・ベル・リュレットの二人はそれだけには終わらない。「俺たちはどうなるのか」(10)で、必ずしも明るくない現状や行く末を案じている。「張り切って仕事するには/立場を変えなくちゃならないのか/アメリカにでも行くか(…)思い出の数々と一緒に俺たちはどうなるのか」。
4曲目の「メ・サ・ヴァ・ウ」がアルバム・タイトルになっている。「どこに行っちゃうの」といった意味のこの単語、ルフランで彼女たちは切なく繰り返す。「山々の頂に置かれた/菊の花冠/煙のヴェールが/宝取り競争の棒のまわりに巻きついている/空の上ではいまも 負けた者勝ちのルール
エディット・ピアフを思わせるように時々、咽喉を震わせるレ・ベル・リュレットの二人。生きることの辛さ、人生の苦悩をテーマに歌っているところは、フレエルやダミア、ピアフなどのシャンソン・レアリスト(現実派シャンソン)の流れを汲むと言っていい。しかも、声とアコーディオンというミニマルな編成で、ドラマと感動を創り出し、並々ならぬ才能を示している。簡潔さと力強さ、少しのユーモア、これが彼女たちの魅力だ。
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