有名なパリの地下鉄。いまその構内ではフランスの若きミュージシャンたちが、ライヴで生の音を響かせています。しかし、乗車したくても張りめぐらされたパリのメトロポリタンにはナビゲーターが必要なのも事実。このコーナーではシャンソンの水先案内人を大野修平がつとめます。
この「ディスクガイド」は、サーバーの容量の関係で6ヶ月ごとに削除いたしますので、必要な方はご自分で保存してください。(管理人)
 
月刊「サ・ガーズ」 2000年6月号

     

Michele Arnaud
《Michele Arnaud》
ミシェール・アルノー
「ミシェール・アルノー」

2枚組(EMI Music France 520485 2)

〈曲目〉CD-1

  1. Voulez-vous jouer avec moi?
    私と遊びませんか
  2. Ne crois pas
    いつまでも若くない
  3. La rue s'allume
    灯ともし頃
  4. Quand on s'est connu
    知りそめし頃
  5. L'eloge de cocu
    コキュ称賛
  6. Zon,Zon,Zon
    ゾン、ゾン、 ゾン
  7. Sous le pont Mirabeau
    ミラボー橋
  8. Julie
    ジュリー
  9. Sans l'amour de toi
    あなたの愛なしで
  10. Morte fontaine
    モルト・フォンテーヌ
  11. Van Gogh
    ヴァン・ゴッホ
  12. Napoli
    ナポリ
  13. Loulou de la vache noire
    ルウルウ・ド・ヴァシュ・ノワール
  14. Deux tourtrelles
    二羽のキジバト
  15. Pourquoi mon Dieu
    神様どうして
  16. Pauvre Verlaine
    哀れなヴェルレーヌ
  17. Amour perdu
    失せし恋
  18. Toi qui marchais
    歩いていたあなた
  19. L'inconnue
    見知らぬ女(ひと)
  20. Il y a des annees
    数年前

〈曲目〉CD-2

  1. Angelo
    アンジェロ
  2. Comment dire
    どう言えばいいのでしょう
  3. Et apres?
    それから?
  4. La chanson de Tessa
    テッサの歌
  5. Ne vous mariez pas les filles
    結婚しないで、娘さんたち
  6. Si les eaux de la mer
    もしも海の水が
  7. Les papillons noirs
    レ・パピヨン・ノワール(黒い蝶)
  8. Ballade des oiseaux de croix
    十字架の鳥たちのバラード
  9. Chanson sur une note
    ワン・ノート・サンバ
  10. Sans toi
    あなたがいなくて
  11. Un soir
    夕べ
  12. La marche arriere
    後方行進曲
  13. Je croyais(Yesterday)
    イエスタデイ
  14. La grammaire et l'amour
    文法と恋
  15. La chabraque
  16. Marie d'Aquitaine
    アキテーヌのマリー
  17. Cherbourg avait raison
    シェルブールは正しかった
  18. La chanson des vieux amants
    懐かしき恋人たちの歌
  19. Le bleu de l'ete
    夏の青
  20. Timoleon le jardinier
    庭師ティモレオン
   

 髪振り乱して歌い上げるタイプではない。抑制のきいた歌い方だけれど、冷たいわけではない。知性と感性のバランスが程よいのだ。タイプとしてはコラ・ヴォケールに近いものがある。エレガントでありながら、親しみも感じさせてくれる歌い手だ。
 ギヨーム・アポリネールの詩「ミラボー橋」をとり上げているが、誰もが思い浮かべるあのメロディーではない。ジャック・ラスリー作曲のもので、ちょっとクラシックの雰囲気が漂う。個人的には、レオ・フェレの書いたメロディーの方が好ましいけれど。
 若きゲンズブールは右岸にあったキャバレ、ミロール・ラルスイユで彼女のピアノ伴奏をしていた。このアルバムの2枚目のCDに収められた「レ・パピヨン・ノワール」では二人でデュエットしている。ゲンズブールの作品を早くから歌ったのも彼女だった。
 他にも当時の若手の新曲に取り組んでいる。サルヴァトーレ・アダモの「哀れなヴェルレーヌ」(CD1 10)、「失せし恋」(同11)、ジョルジュ・ムスタキの「神様どうして」(CD1 15)、ギイ・ボンタンペリの「歩いていたあなた」(CD1 18)などの作品の初々しさを損なわずに歌う。
 CD2ではフランス語に訳された外国曲にもチャレンジしている。「ワン・ノート・サンバ」(9)があるかと思えば、ビートルズの「イエスタデイ」(13)も、ユーグ・オーフレイの訳詞で並んでいるのも楽しい。時代の空気も敏感に嗅ぎ取っていたのだろう。選曲に当たって視野が広かったシンガーだったことがうかがわれる。

   


 

 

《50ans d'accordeon 109 grands succes》
EPM-984972 (6枚組)

 一人のアコーディオニストが数曲ずつ演奏しているので、〈アーティスト名〉の後に複数の〈曲目〉を表記してあります。

CD-1 "Le genie de la valse valses modernes"
   
「ワルツの天才、モダン・ワルツ」

  • Tony Murena:Indifference La guigne/ Pepee etc.
  • Jo Privat:Sa preferee
  • Emile Prud'homme:Caravane rabouine
  • Gus Viseur:Douce joie/ L'incomprise/ Swing valse/ Flambee montalbanaise/ L'imprevu etc.
  • Les freres Colombo:Jeannette
    他全18曲

CD-2 "Valse musette, l'age classique"
   「ヴァルス・ミュゼット、クラシックの時代」

  • Roger Labbe:Amour piemontais
  • Joseph Colombo:Germaine
  • Guerino:Belle Frimousse/ Idylle inconsciente etc.
  • Emile Vacher:En souplesse/ Frissonante
  • Medard Ferrero:Bohemienne
  • Jean Vaissade:Espoirs perdus
    他全18曲

CD-3 "Des bouges au musette"
   「ミュゼット小屋」

  • Emile Carrara:C'etiait un musicien/ Mon amant de Saint-Jean
  • Henri Gara:C'est un mauvais garcon
  • V.Marceau:Sous les acacias/ Volupta/ Ca gaze
  • Fredo Gardoni:Comme un mouchoir de poche
  • Galiardin:La valse brune
  • Les freres Peguri:Les nocturnes
    他全18曲

CD-4 "Le swing"
   「スウィング」

  • Gus Viseur:Wind and spring/ Nuages/ I'm getting sentimental over you/ Swing/ Matelotte etc.
  • Tony Murena:Maria/ Rythme et swing/ Swing accordeon/ Boum-Boum/ Gitan swing etc.
  • Emile Carrara:Promenade en barque/ Le charmeur de serpent
  • Michel Warlop:Strange Harmony
    他全19曲

CD-5 "Virtuosite"
   「妙技」

  • Joe Rossi:Czardas
  • Medard Ferrero:La rafale/ Paganini-Mazuruka/ Joyeuse polka Perles de cristal
  • Robert Trognee:Le retour des hirondelles
  • Guerino:Brise napolitaine
  • Adolphe Deprince:Espoirs perdus
  • Henri Monboise:Impression
  • Emile Vacher:Aubade d'oiseau/ Valse de l'abbaye/Reine de musette/ La bourrasque/ Les triolets
  • Louis Peguri:Escapade
    他全18曲

CD-6 "Autres danses du bal"
   「バルでの他のダンス」

  • Emile Prud'hoomme:A Honolulu
  • Jean Vaissade:La morena/ Tout s'efface/ Ma reguliere
  • Adolphe Deprince:La pi-pa-pa-pa
  • Josephe Colombo:Espanolita
  • Jo Privat:Mefiance
  • Medard Ferrero:Miliana/ El Ferrero/ Dalinette/Averse/Gallito
  • F.Pizaneri:Flolette
  • Fredo Gardoni:L'entrainante
  • Charles Peguri:Mandolinette
    他全19曲

   

 6枚のCDが入ったケースが、ちょうどアコーディオンの蛇腹みたいにというか、屏風のように開く仕掛けになっている。手に取っただけでヴォリューム感が伝わり、嬉しくなってくる。
 アコーディオン大好きな僕などにはお誂え向きだけど、よほどこの楽器が好きでないと、続けて聴くのはちょっと辛いかもしれない。そういう人は、片づけものや家事などのバック・グラウンド・ミュージックとして流しておくと、軽やかな気分になれると思う。案外、疲れた心と身体を癒してくれるかもしれない。
 いずれ劣らぬ名演・名曲揃いだ。
 94年、「パリ・ミュゼット」のCDが3枚、EPIC・ソニーから、また、Toshi Tsushimaさんの編集になる「アコーディオン・パリ」シリーズが5枚、学研プラッツから発売されたことがあった。少し盛り上がったけれど、熱しやすく冷めやすいわが国民性の故か、にわかブームは去ったようだ。そのToshiさんが最近パリから送ってくれたのがこの6枚組。先のシリーズに入っていた曲も数多い。何より、価格がお買い得。氏に謝意を表しながら、このアルバムについて書いてみたい。
 まず言いたいのは、〈曲目〉欄で示したようにディスク1から6まで、アコーディオンで演奏される音楽の種類別に編集されていること。コード(和音)を出せるこの楽器が活躍する場の幅広さが分かろうというもの。
 もうひとつ。ディスク3の18曲目に「サ・ガーズ」《Ca gaze》が収録されていること。 そう、実は小誌の名前はマルソー・ ヴェルシュラン Marceau Verschuren が書いたこの曲から拝借しているのだ。一拍目にアクセントを置いた、調子のいい典型的なジャヴァ曲。フランス語の俗語で「元気だよ」とか「うまく行ってるぜ」といった意味だ。"Ca va?"(「サ・ヴァ = どう、元気?」)なんて声をかけられた時に、「サ・ガーズ」と答えるわけだ。「サクサクと事を運ぶ」という意味もある。
 数年前、シャンソン歌手の古賀力さんが東京・パルコ劇場でリサイタルを開いた。バック・ミュージシャンはフランスからやって来た連中だった。その時、ジャン ピエール・ドルセ Jean-Pierre Dorsay (ピアノ)、フェルナン・ブードゥー Fernand Boudou(キーボード)、パスカル・マンジエ Pascal Mangier(アコーディオン)、フランシス・ロード Francis Rode(ドラムス)の四人がステージで楽しそうに演奏したのが 「サ・ガーズ」だった。古賀さんを囲んで、友好的な、いい雰囲気だったのを覚えている。それ以来、この曲が好きになったというわけ。
 今世紀初頭から活躍した、巨匠と呼ぶにふさわしいアーティストたちのオリジナル録音ばかりを集めてある。しかも、作曲者自身による演奏が収められているのだから、興味が増すというもの。
 アコーディオニストたちは愛妻家が多かったのだろうか。妻の名を冠した曲がいくつかある。エミール・ヴァシェ Emile Vacher(1882〜1969)は「マド」《Mado 》(CD3-16)を、ジョゼフ・コロンボ Joseph Colombo(1897〜1973) は「ジェルメーヌ」《Germaine》(CD2-6)を、ギュス・ヴィズール Gus Viseur(1916〜74)は「ジャネット」《Jeannette》(CD 2-3)を、それぞれ伴侶に捧げている。ギュスの場合、「ジャネット」のすぐ後に「諍いの夜」《Soir de dispute》という曲が続いているのは、夫婦というものの機微に通じたこのアルバムの製作者が、ちょっとした遊び心を見せたように思えてならない。
 リュシエンヌ・ドリール Lucienne Delyle が歌った「サン・ジャンの私の恋人」が、作曲したエミール・カララ Emile Cararra(1915〜73)の演奏で聴ける。(CD3-14)この3枚目には、アンリ・ギャラ Henri Garatの「不良青年」《Un mauvais garcon》(7)の他、ガリアルダン Galiardinが口笛を交えて歌う「褐色のワルツ」《La valse brune》が入っている。街角で歌っているかのよな印象を受ける。また、小誌4月号で紹介したロバート・クラムRobert Crumbとドミニク・クラヴィック Dominique Cravic率いるレ・プリミティフ・デュ・フュテュールのアルバムに入っていた「ムッシュ・ベベール」の元歌も5曲目で聴ける。他にもヴォーカルが聴けるけれど、さあ、6枚のうちのどれに入っているでしょう。ご自分でお確かめください。
 5枚目。ジョー・ロッシ Joe Rossi が「チャルダシュ」で披露する早弾き。エミール・ヴァシェ Emile Vacher は「鳥のオバド」で、まさに鳥のさえずりを思わせる指使いで弾く。後朝の歌であるオバドにふさわしい、さわやかな響きがある。
 アコーディオンはいろいろなスタイルの音楽とマッチすることを6枚目のディスクがし示している。ルンバがある、ポルカやマズルカ、タンゴにフォックス・トロット、パソ・ドブレも...。アコーディオンの表現力は実に幅広い。マルセル・アゾラ Marcel Azzoraやジョー・
ロッシの師匠だったメダール・フェレロ Medarard Ferreroが、もう一台のアコーディオンと競演する「アヴェルス」も素晴らしい。「妙技」というタイトルの付いた6枚目にピッタリの曲。
 あなたもこのボックスセットでアコーディオンの魅力にハマッてみませんか。

   


 

 

アニー・フィリップ
「コンプリート・シックスティーズ」

MSIF-9728/9

CD-1 落第しちゃった/片道切符と入場券/女のコの事わかってないのね/ わたしの予感/チャカブン 他全20曲

CD-2 タクシー急いで(シングル・ヴァージョン)/ アニーへの手紙/ブロンドの罠/ 子供たちにかまわないで/ゆびきりげんまん 他全23曲

   

 1960年代、フランスの若者たちを熱くさせたイエイエ・ブームがあった。英米ポップスの影響をもろに受けた音楽だったけれど、やがてポルナレフの登場により、表舞台から姿を消していった。日本にもほとんどリアルタイムで紹介され、一部の少年少女たち(ビートルズ好きだった僕もそのなかにいた)の関心を集めた。シルヴィ・ヴァルタン Silvie Vartan、フランス・ギャル France Gall,シェイラ Sheilaなどのドーナツ盤やアルバムが発売され、ラジオでも日常的に流されていた。ああ、過ぎ去りし良き日々…。
 当時、ティーンズ向けの音楽誌サリュ・レ・コパンのページをにぎわせたイエイエ・アイドルのひとり、アニー・フィリップ Annie Philippe のCDが出た。フランス・ギャルを思わせる声だけれど、こちらの方がややハスキーなところもある。
 時代も若やいでいたのだろう、たぶん。アニーの歌全体にそんな気分が溢れている。アップテンポの曲には、人生の春を迎えた乙女の喜びが感じられる。でも、ちょっとした事で傷ついたり、悩んだりするのが思春期の常。「わたしの友達を」(CD1-17)や「アニーへの手紙」(CD2-5)が、揺れ動く少女の心の鼓動を伝えているかのようだ。
 一時はスターだったアニー・フィリップだが、いつしか姿を見かけなくなった。「モードな毎日」で彼女は歌った。「私、流行についていくの」。流行の方がアニーを見放してしまったのだろうか。
 なお、解説書に載っている本城和治氏のインタヴューも面白い。氏はかつて日本ビクターのフィリップス・レーベル担当者。フランス・ギャルの「夢見るシャンソン人形」などのリリースを手がけた人で、僕たちが何気なくラジオ聴いて胸ときめかせることができたのも、こうした人たちの努力のお蔭だったんだな、と改めて思う。