有名なパリの地下鉄。いまその構内ではフランスの若きミュージシャンたちが、ライヴで生の音を響かせています。しかし、乗車したくても張りめぐらされたパリのメトロポリタンにはナビゲーターが必要なのも事実。このコーナーではシャンソンの水先案内人を大野修平がつとめます。
この「ディスクガイド」は、サーバーの容量の関係で6ヶ月ごとに削除いたしますので、必要な方はご自分で保存してください。(管理人)
 
月刊「サ・ガーズ」 2000年7月号

     

Marie Dubas

〈曲目〉Disque 1

  1. L'amour est un jeu
    恋はゲーム
  2. T'aimer librement
    自由にあなたを愛する
  3. Pedro(test)
    ぺドロ(テスト)
  4. Marguerite
    マルグリット
  5. Lise (test)
    リーズ
  6. Ca changeraient(Test)
    変わるでしょう
  7. Ca fait peur aux oiseau
    それは鳥たちを怖がらせる
  8. Deja
    すでに
  9. Quand je danse avec lui(Test Piano)
    あの人と踊る時
  10. Les houzards de la garde(Test Piano)
  11. C'est si bon quand c'est defendu
    禁じられるってとても素敵
  12. Quand je danse avec lui
    あの人と踊る時
  13. Les housards de la garde
  14. La chanson du roulier
    荷車引きの歌
  15. Pedro
    ペドロ
  16. Piano-Meditation(Test)
    ピアノ− 瞑想
  17. Ca m'fait mal
    痛いわ
  18. Butterfly Tox
    バタフライ・トックス
  19. Quand la dame...
    ご婦人が...
  20. La java du crochet
    クロシェ・ジャヴァ
  21. J'suis bete
    私っておバカさん
  22. Mais qu'est-ce que j'ai?
    いったいどうしたのかしら
  23. Le doux caboulot (Test orchestre)
    なつかしいストラン
  24. Le doux caboulot
    なつかしいレストラン
  25. Rengaine
    お決まり文句
  26. Son voile qui volait
    飛んでいたヴェール

〈曲目〉Disque 2

  1. Priere de la Charlotte (Poeme de Noel)
    シャルロットの祈り(クリスマスの詩)
  2. Les chansons de Monsieur Bleu (Le naufrage-Arithmetique- Grammaaire-Le chien Fido-Le petit chat est mort)
    ブルー氏の歌 (難破−アリテメティック−文法−犬のフィド−仔猫は死んだ)
  3. Croyez-vous ma chere?
    信じてくださる?
  4. D'amour et d'eau fraiche
    恋とつめたい水
  5. C'est toujours ca de pris
  6. La java d'un sou
    三文ジャヴァ
  7. On ne sait pas qui on est
    自分が誰かわからない
  8. Le tango stupefiant
    幻覚のタンゴ
  9. Mon legionnaire
    私の兵隊さん
  10. Le fanion de la legion
    軍旗の下に
  11. Monsieur est parti en voyage(Test)
    旦那様は旅行中
  12. Depeche-toi de m'aimer
    早く愛して
  13. Les nains (Test)
    小人たち
    DOCUMENTS INEDITS =未発表資料
  14. Doudou la terreur
    恐怖のドゥドゥ
  15. Presentation de Gilles
    ジルの紹介
  16. Vive la chanson francaise
    シャンソン・フランセーズ万歳
  17. Quand on vous aime comme ca
    こんな風に愛されるなんて
  18. Le vieux phonographe
    古い蓄音機
  19. Le pot-pourri 1900
    1900年メドレー
  20. Ce soir je pense a mon pays
    今宵は故郷を思う
  21. Les voila
    彼らがここに
   

 宮本三郎画伯の装丁になるレコード6枚組(SP)「シャンソン・ド・パリ」がコロムビアから発売されたのが1938年(昭和13年)。そのなかに、スペインの闘牛士に恋する女を歌ったデュバのシャンソン「ペドロ」が入っていた。これが彼女の本邦初登場。以降も東芝EMIなどから復刻盤のLPが出たけれど、近頃はとんとお目にかからなかった。デュバといえば、“ファンテジスト”の系統に属する女性歌手、という決まり文句が返って来る。訳すと“幻想派”ということだが、これだけではちょっとわかりにくい。オカルトやSFの類かと誤解されるかもしれない。この表現のもとになっている“ファンテジー”という言葉に注目してみよう。
 Fantaisie ファンテジーにはいくつかの意味がある。ふとした思い付きや気まぐれを指す場合もあるし、奇抜な独創性や一風変わった面白味を指すこともある。その両方を兼ね備えて歌う歌手がファンテジストというわけ。
大向こう受けを狙って面白おかしく演じるように歌う。このタイプの歌手は実際に観る方が楽しいと思う。歌だけだと、なんかやり過ぎじゃないのって感じてしまうこともある。このアルバムでも、何曲かそんな思いにとらわれた。でも、あのエディット・ピアフがマリー・デュバを模範と仰いだだけあって、演技力あふれる歌い方には、リスナーをぐいぐい引っ張って行く強い力がこもっている。
 「私の兵隊さん」(ディスク2−9)や「軍旗の下に」(同−10)などはピアフも取り上げている。聴き比べてみると、細部でピアフがデュバを真似ている箇所がある。もちろん、彼女がデュバの物真似だけで終わったわけではないのは言うまでもないけれど。
 「なつかしいレストラン」(ディスク1−23・24)のように、同じ曲の別ヴァージョンが収められているので、これまた聴き比べて楽しめる。特に、詩人・作家のフランシス・カルコが書いたこのシャンソンを歌うデュバの声は澄んでいると同時、に親しみやすさも感じさせる。

   


 

 

ジャン・デュポン
「チチ帰る」
JDU1 /YTT006-1

〈曲目〉

  1. チチ帰る
  2. こんなウワサ
  3. ローラと3百万フラン
  4. 満月の夜
  5. ピザ・アルチュール
  6. 12歳
  7. 信心深いマルク
  8. みんな無関心
  9. お気に入りの女
  10. 愛とは即ち…
  11. ローラと3百万フラン(インスト・ヴァージョン
  12. チチ帰る

   

 パリ在住のToshiさんの会社YTTからリリースされたアルバム。思わず笑ってしまうタイトルだ。向風三郎さん、実はToshiさんが書いたライナー・ノートの受け売りをさせてもらうと─
 ジャン・デュポン Jean Dupontは芸名で、正体はかつてのトゥールーズの男女デュオ、カゼロのエリック・カゼロ。日本で言えば、佐藤一郎とか鈴木太郎みたいな、どこにでもある名前に変えて新たな出発をした。名前は平凡でも中身は違うぞ、という意気込みを示したものだろうか。
 全体にホンワカしたテンポで、春ののどかな日だまりのような気分。1曲目に登場するチチは「自分のウサギ小屋でニンジンを食べている」工場労働者。毎日、同じような事の繰り返し。毎年夏に出かける海も同じ場所。ヴァカンスさえも日常に組み込まれたルーティン・ワークのひとつなのかな。それでも彼は幸せだという。我唯足るを知る、というタイプのフランス人もいるんですねえ。
 夢見心地にさせてくれる歌詞とメロディーを持った「満月の夜」(4)。ジャン・デュポンの心優しいイマジネーションが、夜の海に広がる。
 11・12曲目に「ローラと3百万フラン」と「チチ帰る」のインストゥルメンタル・ヴァージョンが入っている。これでカラオケを楽しむのもいいけれど、もう少しジャン・デュポンの“生活と意見”に耳を傾けたい僕としては、歌を入れてほしかったなあ…。

   


 

 

ペトゥラ・クラーク
「ベスト〜セ・プリュ・ベル・シャンソン」
MSI MSIF-9741
〈曲目〉
  1. 恋のダウンタウン
  2. アイ・ノウ・ア・プレイス
  3. ユード・ベター・カム・ホーム
  4. ラウンド・エヴリイ・コーナー
  5. マイ・ラヴ
  6. サイン・オヴ・ザ・タイムス
  7. 愛のセレナーデ
  8. ロメオ
  9. ヤー! ヤー! トゥイスト
  10. 愛のシャリオ
  11. 聞き分けのない女の子、男の子
  12. 内気なシェリフ
  13. 清廉潔白
  14. ぬかるみ
  15. 小さな花
  16. 花のささやき
  17. プリーズ・プリーズ・ミー
  18. ピンと針
  19. 二人だけのパラダイス
  20. リスペクテッド・マン
  21. ノー・ゴー・ショウ・ボート
  22. ラッキー・ガール
  23. キャント・ゲット・オーヴァー

   

 アルバム・タイトルにある「セ・プリュ・ベル・シャンソン」とは、「彼女の最も素晴らしい歌の数々」といった意味。いわゆるベスト・アルバムなのだけれど、フランス語で歌った曲を集めてあるところがミソ。
 ゲンズブール作品が4曲ある。11曲目の「聞き分けのない女の子、男の子」《Vilaine fille, mauvais garcon》、「内気なシェリフ」《O O Sheriff》、「清廉潔白」《Les incorruptibles》、「ぬかるみ」《La gadoue》がそれ。ちょいとひねりのきいたゲンズブールの歌詞を、割と素直に歌っているペトゥラがさわやか。
 彼女のヴォーカルに顔を出すUKイングリッシュのアクセントもひとつの魅力になっている。ラインナップとしては、1960年代のヒット・ナンバー目白押し。
 英語で聞き覚えのある歌がフランス語になると、不思議な印象を受ける。どこか似てはいるんだけど、ごくたまにしか会わない従兄弟みたいな感じ、と言えばわかってもらえるだろうか。
 パリの中華料理店で、フランス語で書かれたメニューを見るのはなかなか楽しい。こんなのがあった。"Pate imperiale" 「パートゥ・アンペリアル」(皇帝風パスタ)というのを頼み、豪華な一品を想像しながら待った。ところが、出て来たのはなんと、ただの春巻きだった。
 それと同じとまでは言わないけれど、似たようなことがこのアルバムのフランス語タイトルにも見受けられる。ケチをつけるつもりは毛頭ない。でも、面白いから書いておこう。
 トップに収められた「恋するダウンタウン」。元歌で「ダウンタウン」と繰り返す箇所に"Dans le temps" “ダン・ル・タン”と置き換えたのはぴったりハマッていていい。笑えるのはビートルズ初期のヒット「プリーズ・プリーズ・ミー」。アレンジはまるで一緒。直訳すれば「僕を満足させて」になる。が、フランス語ヴァージョンでは《Tu perds ton temps》「あなたは自分の時間を失うよ」になっている。ジョン・レノンやポール・マッカートニーと同国人としてペトゥラはどう思ったのだろう。
 60年代の素敵なメロディ一の楽しみ方がまたひとつ増えた。

   


 

 

 
Leo Ferre
《Metamec》
La Memoireet la Mer
10015

<曲目>(ここに掲げた邦題は定訳ではありません。仮称です)

  1. Le vieux marin
    年老いた船乗り
  2. La Methode
    方法
  3. Michel
    ミッシェル
  4. Metamec
    メタメック
  5. Zaza
    ザザ
  6. Du coco
    ココ
  7. Death...Death...Death...
    死...死...死...
  8. Si tu veux tu es neuve
    その気になれば、きみは真新しくなる
  9. Opus X
    作品X

   

 レオ・フェレが逝ってからもう7年が経つ。今年、彼の“新譜”が出た。イタリアはトスカナ地方にある自宅で録音された音源を使って仕上げられたのが、このアルバム。息子のマティユーが製作に深く関わっている。自分で弾くピアノもヴォーカルも同じトラックに収録した宅録だから、本格的なスタジオ録音に比べてサウンド面でやや物足りなさは残る。が、要は中身だ。
 “五月革命”直後の1970年代初め、「アムール・アナルシー」「孤独」といったアルバムを発表するようになってから、レオ・フェレの表現スタイルは変わった。音楽的にはロック・グループ、ズー Zoo との出会いが何かをフェレに与えたのだろう。思い切り単純化して言えば、プログレッシヴ・ロック的手法を積極的に取り入れたと言えよう。
 いつ果てるとも知れぬ、呪文のような唱法は、ここでも見受けられる。はっきり言って難解なアルバムだ。歌詞の内容を追っても意味がつかめない場合もある。ここまで来ると、本人にしか真の意味は分からないのかもしれない。
 時に音楽を凌駕するほどまでに言葉を発し続けたレオ・フェレ。それでもなお、まだ言うべき事柄を自分の内に持っていたのは驚くべきことだ。今後もさらに未発表作品が公開されるという。このシャンソンの巨人への興味はさらに募るばかりだ。