アルバム・タイトルにある「セ・プリュ・ベル・シャンソン」とは、「彼女の最も素晴らしい歌の数々」といった意味。いわゆるベスト・アルバムなのだけれど、フランス語で歌った曲を集めてあるところがミソ。
ゲンズブール作品が4曲ある。11曲目の「聞き分けのない女の子、男の子」《Vilaine fille, mauvais garcon》、「内気なシェリフ」《O O Sheriff》、「清廉潔白」《Les incorruptibles》、「ぬかるみ」《La gadoue》がそれ。ちょいとひねりのきいたゲンズブールの歌詞を、割と素直に歌っているペトゥラがさわやか。
彼女のヴォーカルに顔を出すUKイングリッシュのアクセントもひとつの魅力になっている。ラインナップとしては、1960年代のヒット・ナンバー目白押し。
英語で聞き覚えのある歌がフランス語になると、不思議な印象を受ける。どこか似てはいるんだけど、ごくたまにしか会わない従兄弟みたいな感じ、と言えばわかってもらえるだろうか。
パリの中華料理店で、フランス語で書かれたメニューを見るのはなかなか楽しい。こんなのがあった。"Pate imperiale" 「パートゥ・アンペリアル」(皇帝風パスタ)というのを頼み、豪華な一品を想像しながら待った。ところが、出て来たのはなんと、ただの春巻きだった。
それと同じとまでは言わないけれど、似たようなことがこのアルバムのフランス語タイトルにも見受けられる。ケチをつけるつもりは毛頭ない。でも、面白いから書いておこう。
トップに収められた「恋するダウンタウン」。元歌で「ダウンタウン」と繰り返す箇所に"Dans le temps" “ダン・ル・タン”と置き換えたのはぴったりハマッていていい。笑えるのはビートルズ初期のヒット「プリーズ・プリーズ・ミー」。アレンジはまるで一緒。直訳すれば「僕を満足させて」になる。が、フランス語ヴァージョンでは《Tu perds ton temps》「あなたは自分の時間を失うよ」になっている。ジョン・レノンやポール・マッカートニーと同国人としてペトゥラはどう思ったのだろう。
60年代の素敵なメロディ一の楽しみ方がまたひとつ増えた。
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