同じMSIからもう1点傑作アルバムが出ている。カール・ゼロ Karl Zero の『ソングス・フォー・カブリオーレ』《Songs for cabrioret and Otros Typos de Veiculos》(MSIF-9765)。何が傑作かって、チャチャチャのリズムに傾倒しまくって作られているアルバムだから。アメリカで育ったフランス人作曲家アレクサンドル・デスプラ Alexandre Desplat と、ジャーナリストでマルチ・アーティストであるカール・ゼロの遊び心があちこちに満ち溢れているのだ。
シャンソン・フランセーズはもともとラテン・ミュージックと相性が悪くなかった。アンドレ・クラヴォーAndre Claveau が歌った「バラ色の桜んぼの木と白いリンゴの木」《Cerisiers roses et pommiers blancs》はペレス・プラド・オーケストラによってボレロ=マンボにアレンジされ、「セレソ・ローサ」として世界中で親しまれた。
エディット・ピアフ Edith Piaf のレパートリーとして知られる「群衆」《La foule》はもとをただせば南米ペルーの曲だった。12月に日本でライヴを行なったピエール・バルーPierre Barouh や女性シンガー、ビーアB<CODE NUM=0095>a はブラジル音楽の重要なテイストであるサウダージをシャンソン的な、軽いメランコリックなポエジーと結びつけることに成功している。
ここでカール・ゼロはひとりでリード・ヴォーカルを取りながら、様々な歌い方を試みている。ラテン的に陽気で屈託のない歌いぶりに耳を傾けていると、ふと別の男性シンガーの名前が浮かんだ。マルセル・アモン Marcel Amont だ。底抜けに明るく、しかし、同時にどうしようもないほどおかしくて物哀しい結末へと駆け抜ける、そんな主人公を彼は歌っていなかったろうか。僕たちの人生って案外そんなものなのかもしれないな。彼の音楽はそんな事を考えさせてくれた。カール・ゼロはちょっとアモンに似ていると思う。だが、ゼロは少しばかり軽やかに人生街道を歩いているようにも感じられる。それというのも、アンリ・サルヴァドールHenri Salvador をはじめとする彼を取り巻くアーティストたちの心優しいサポートのおかげだろうか。
「ポンチアナ」「アイ・ラヴ・ユー・フォー・センチメンタル・リーズン」「ポルトフィーノで見つけた愛」「サヴァ・サヴァ」「闘牛士」「想いこがれて」など全14曲にノスタルジックな風が吹く…。
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