有名なパリの地下鉄。いまその構内ではフランスの若きミュージシャンたちが、ライヴで生の音を響かせています。しかし、乗車したくても張りめぐらされたパリのメトロポリタンにはナビゲーターが必要なのも事実。このコーナーではシャンソンの水先案内人を大野修平がつとめます。
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月刊「サ・ガーズ」 2001年1月号

     

V.A.
『シュプレーム・ラウンジ』

 まずは、ユニークな洋楽のCDを積極的にリリースしているMSIからのものを。

 プレイタイム・サントラ・シリーズ第2弾の発売が始まっている。ミッシェル・ルグラン・オーケストラの演奏「ジーザス・クライスト・スーパー・スター」がトップを飾るのはV.A.『シュプレーム・ラウンジ』(MSIF-9769)。

 西暦はこの人物の生誕をもとに始まったわけだし、新たな世紀に踏み出そうといういま、この曲を聴きながら来し方行く末に思いを馳せるのも悪くない。他にも映画「ファントマ電光石火」「うず潮」「ミスター・レディ ミスター・マダム」などのテーマ曲が全部で27曲。

 

 

V.A.
『TVトゥーンズ〜フランセーズ』

 V.A.『TVトゥーンズ〜フランセーズ』
(MSIF-9779)はタイトルのとおり、フランスのTV番組主題歌(曲)を集めている。「イルカのウーム」「ベルフェゴール」「シネ=クラブ・ダンテンヌ・ドゥー」などのフランス産の番組だけが収録されているわけではない。「UFOロボ・グレンダイザー」「宇宙からのメッセージ〜銀河大戦」など外国ものアニメのテーマ曲も顔を揃え、全41曲。

ひょっとして聞き覚えのあるメロディーに出会うかもしれない。

 

 

V.A.
『トゥーンズ・アンファン』

 全45曲とこれまた盛りだくさんなのはV.A.『トゥーンズ・アンファン』(MSIF-9780)。

 フランスの子ども向けTV番組の主題歌(曲)、挿入歌(曲)のオンパレード。こちらも「カリメロ」「ポパイ」「セサミ・ストリート」「「宇宙海賊キャプテン・ハーロック」「トム・ソーヤの冒険」「チャーリー・ブラウンとゆかいな仲間たち」などアメリカ製アニメが幅をきかせている。

 楽曲としてはオリジナルのままのものもあれば、フランス放映時に独自の作品にされたものもある。それらを聴き比べるのも一興と言えよう。

 演奏に加わったアーティストもフランソワ・ド・ルーベ、ヘンリー・マンシーニ、ミッシェル・ルグラン、ダニー・エルフマン、など多彩な顔ぶれだ。

 

 

 

カール・ゼロ
『ソングス・フォー・カブリオレ』

 同じMSIからもう1点傑作アルバムが出ている。カール・ゼロ Karl Zero の『ソングス・フォー・カブリオーレ』《Songs for cabrioret and Otros Typos de Veiculos》(MSIF-9765)。何が傑作かって、チャチャチャのリズムに傾倒しまくって作られているアルバムだから。アメリカで育ったフランス人作曲家アレクサンドル・デスプラ Alexandre Desplat と、ジャーナリストでマルチ・アーティストであるカール・ゼロの遊び心があちこちに満ち溢れているのだ。

 シャンソン・フランセーズはもともとラテン・ミュージックと相性が悪くなかった。アンドレ・クラヴォーAndre Claveau が歌った「バラ色の桜んぼの木と白いリンゴの木」《Cerisiers roses et pommiers blancs》はペレス・プラド・オーケストラによってボレロ=マンボにアレンジされ、「セレソ・ローサ」として世界中で親しまれた。

 エディット・ピアフ Edith Piaf のレパートリーとして知られる「群衆」《La foule》はもとをただせば南米ペルーの曲だった。12月に日本でライヴを行なったピエール・バルーPierre Barouh や女性シンガー、ビーアB<CODE NUM=0095>a はブラジル音楽の重要なテイストであるサウダージをシャンソン的な、軽いメランコリックなポエジーと結びつけることに成功している。

 ここでカール・ゼロはひとりでリード・ヴォーカルを取りながら、様々な歌い方を試みている。ラテン的に陽気で屈託のない歌いぶりに耳を傾けていると、ふと別の男性シンガーの名前が浮かんだ。マルセル・アモン Marcel Amont だ。底抜けに明るく、しかし、同時にどうしようもないほどおかしくて物哀しい結末へと駆け抜ける、そんな主人公を彼は歌っていなかったろうか。僕たちの人生って案外そんなものなのかもしれないな。彼の音楽はそんな事を考えさせてくれた。カール・ゼロはちょっとアモンに似ていると思う。だが、ゼロは少しばかり軽やかに人生街道を歩いているようにも感じられる。それというのも、アンリ・サルヴァドールHenri Salvador をはじめとする彼を取り巻くアーティストたちの心優しいサポートのおかげだろうか。

 「ポンチアナ」「アイ・ラヴ・ユー・フォー・センチメンタル・リーズン」「ポルトフィーノで見つけた愛」「サヴァ・サヴァ」「闘牛士」「想いこがれて」など全14曲にノスタルジックな風が吹く…。

 

 

   

デジルレス
「フランソワ」
(終わりのない旅)
(輸入・日本仕様盤:
   Choice of Music/YTT 0010-1)

〈曲目〉

  1. 終わりのない旅
  2. 私たちは誰?
  3. アニマル 
  4. ハリ・オム・ラマクリシュナ
  5. 山から転落して
  6. 忘れなさい
  7. はじまり
  8. 彼女は星のよう
  9. 誰がわかるの
  10. 七つの神のジョン
  11. わけを云って
  12. 終わりのない旅(Maxi version)
  13. わけを云って(New age version)
   

 このアルバム発表時のフランスのヒットチャート事情は、添えられた向風三郎さんの解説に詳しく述べられている。そこにもあるように、1986年の暮、フランスで大ヒットとなったデジルレスの「終わりのない旅」《Voyage, voyage》とエルザが歌った「哀愁のアダージョ」《T'en vas pas》は後に日本ではCFに起用され、近年にしては珍しく、同時代ポップスが注目されることになった。

 前者は当時34歳、後者は13歳という年齢さはあるけれど、どちらの曲調にも哀切なメロディーが漂っている点が共通していた。喜びに満ち溢れた曲よりもどこか物哀しさをたたえたものの方が聴く者の心に届きやすいのは、僕たちの日常が幸せだからか、はたまた不幸せだからこそなのだろうか。いや、そんな詮索など無用、聴いている瞬間だけちょっぴり甘酸っぱい悲しみに浸らせてくれて、最後にはハッピーな気持ちにしてくれさえすれば、ポップスの役割は果たされるのだ、という意見もあるだろう。軽やかさこそがポップスの身上だと言われてしまえば反論のしようもない。

 繰り返しの多い、キャッチーなメロディーラインは、ヒットするポップス曲の必要条件であることは言うまでもない。そこにほんの少し深い味わいの歌詞が乗った時、その曲はさらに印象的になる。たとえば、「終わりのない旅」がそうだ。「旅立て、旅立て、夜と昼のはるか彼方に/旅立て、誰も見たことのない愛の宇宙へ/旅立て、旅立て、インドの大河の聖なる水を越えて/旅立て、そして二度と帰ってこない」(向風氏訳)。

 もうひとつ哀愁漂う曲がある。11曲目の「わけを云って」。夜の街の通りを泣きながら走る紳士淑女たちの描写に続けて、こう歌う。「おお 幸せ 幸せ/流れ星/おお 幸せ 幸せ/揺れ動く波」(拙訳)。1980年代のエレクトロ・ポップの典型を示すサウンドのなかに、大袈裟に言えば、作詞家としてのジャン=ミッシェル・リヴァは真理のひとかけらを入れてみせたのだ。軽やかなドレスの内側に。