リトアニア出身の女性シンガー・ソングライター、ヴェロニク・バルモンが日本にも登場した。
小学生の頃、すでに傑出した詩人の才能を見せていたというヴェロニクの描く世界は独特の光彩を放っている。
それはこのアルバム・ジャケットが物語っているように色とりどりだ。どれもこれもが、夢と現実の間を行き来する不思議なポエジーに満ちている。
アコーディオン、ソプラノサックス、ベースが、ノスタルジーを誘うかのように長めのイントロを奏でる「サン・アミ〜親しい血縁〜」でアルバムは始まる。
さしあたり、ヴェロニク・バルモンの感性のよって来るところを手っ取り早く知るために「ブーシュ・ド・グゥ〜嗜好の出入り口〜」(2)に注目してみるのもいいだろう。
ここにはおそらく彼女が読み耽ったであろう、19世紀フランスの作家の名前が挙げられている。スタンダールとジェラール・ド・ネルヴァル。心理分析の名人と幻想詩人という、異なった才能の持ち主たち。彼女の作品世界の出発点は、どうやらここにあるようだ。
「もし 世界中のお尻が」(6)では、〜nde"=“〜ンド”、"〜re"=“〜レ”という脚韻だけが行ごとに交互に現われる。たった2種類の脚韻しか使っていないのに、サックスのやや奔放な伴奏とも相まって単調に陥っていない。
お尻を地球儀にたとえるなんて面白い発想だ。でも、階段やエスカレーターなどでフランス女性のお尻を仰ぎ見るような状態になる時、この比喩がまんざら誇張でもないなぁ、と思える。
ふと見つけたモノクロ写真に触発され、過去へと思いが向かう「思い出の瞬間(とき)」(8)。昂揚した気分がアップテンンポの曲調で表わされる。でも、思い出をいまの現実として取り戻そうとはしない。
「すべての旅に/終わりが欠かせないのなら/わたしは これだけでいいわ/写真の中で止まった瞬間(とき)」。
夢見ることと、音楽によって活気づけられるポエジーを信じることのできる人には、このヴェロニク・バルモンのアルバムを聴いてみることをお勧めしたい。
なお、僕が解説を書いているので、詳しくはそちらに譲ることにしよう。
ヴェロニク・バルモンのサイトも公開されている。URLは次のとおり。
http://perso.wanadoo.fr/veronique.balmont