昨2002年3月、パリのオデオン劇場で行なわれたコンサートのライヴ録音盤。
冒頭の「エルザ」を聴くだけで、ジャメル・ベニエルスってとても腕のいいアレンジャーだという気にいっぺんでさせられる。彼自身が弾く、思いもかけないテンポのヴァイオリンの音色が、僕たちをエキゾティックな世界へと誘う。
アラベスク。そうか、唐草模様のように互いに絡み合い、空の高みへと、あるいは地表へと伸びてゆく音の連なり。それがこのアルバム全体のコンセプトなのか。思いきりアラブ風のテイストにどっぷりつかった感が漂う。
歌われているのはもちろん、いまは亡きかつての伴侶セルジュ・ゲンズブールの作品たち。よく耳にしたメロディー・ラインが、ジャメルの手によってまたひと味もふた味も違った趣を見せているのが楽しい。伴奏のメロディーが揺れ、それにつられてか、ジェーンの声も微妙に揺れる。
悲しみを誘うのが5曲目の「クロース・トゥ・ザ・リヴァー」。ジェーンの甥に当たるアノ・バーキンが残した作品だ。
彼はリー、アルベルトといった友人たちとKiks Joy Darkness というバンドを組んでいた。ジャック・ケルアックの作品からつけた名前だった。サイトもある。(http://www.kicksjoydarkness.co.uk/)
2001年11月8日、レコーディングしていた北イタリアで自動車事故に遭って3人とも死亡してしまった。みんな二十歳だった。その甥を偲んで、ジェーンは彼の詩を語る。
「私はあなたを思い出すのを誇りに思う」…。
かつては「ゲンズブールのB目面」などと言われたジェーンだけれど、いまは堂々たるものだ。大勢の観客を前にしてもたじろぐことがない。そのあたりがフランソワーズ・アルディと違う点だろう。アルディはコンサートが嫌いなのだから。ジェーンはむしろステージで生き生きしている。そこが彼女にとってのびのびと生きられる場所だと言わんばかりに。
そっと自分だけにジェーンはささやきかけてくれているんだ、とCDを聴いている時には思える。ところが、コンサート会場に足を踏み入れてみれば、たくさんのファンのために歌っている姿に出くわす。エンターテイナーぶりもすっかり身についている。
そのギャップがまた楽しいからこそ、また彼女を観に今日も人々は出かけるのだろう。
ジェーンは5月24日、東京 Bunkamura オーチャードホールを皮切りに、27日(神奈川県民ホール)、28日(福岡サンパレスホール)、29日(大阪厚生年金会館ホール)で公演する。問合せはカンバセーション03-5280-9996まで。