フランスから友人がやって来た。
エリック・ルブロー Eric Lebraud とヴィルジニー Virginie。今年もまた荻窪にある中華と和食のレストラン・東信閣での秋のディナーショーに出演するために来日した。19日から21日まで歌うことになっている。
シャンソン・フランセーズのスタンダード・ナンバーとオリジナル曲を歌いに来たのだ。
今回、ちょっとした番狂わせがあった。予定していたピアニストが一緒に来ることができなくなったのだ。困った、どうしよう。
エリックはシャルル・トレネの甥であるヴュルフラン Wulfran にも声をかけた。ところが、みな都合がつかない。
そこで、僕が提案した。豊島裕子さんにお願いしてみたらどうか、と。一昨年、千葉美月さんが赤坂で経営する「バルバラ」でエリックとヴィルジニーが歌ったことがあり、その時に豊島さんもいたことを思い出したのだ。エリックの歌の雰囲気を知っていてくれるから適任じゃないだろうか。
昨日、朝8時52分に彼らの乗った飛行機が成田空港に着いた。通関を終えて出てきたのは10時近くだった。再開を喜び合う。
東信閣に入る。午後3時から「バルバラ」でのリハーサル。豊島さんとの初顔合わせだ。譜面やカセットで彼らの曲を知ってくれているので、スムーズに進む。
「ラストダンスは私と」を日本語で歌うのが、エリックにとって今年のテーマ。これに手こずっている。
というのも、日本では越路吹雪さんのレパートリーとして有名なこのシャンソンは、ダリダやモルト・シューマンが歌ってはいるものの、フランスではあまり知られていないので、エリックにとっては初体験だからだ。フランス語と日本語ではまるでイントネーションが違うので、エリックは戸惑っている。まぁ、仕上がりが楽しみというところ。四苦八苦している姿には可哀そうな気もするけれど、ぜひチャレンジして貰いたい。
気心が知れているというのだろうか、僕がほしいなと思っていた物をエリックは買って来てくれた。
フランスで発売されたばかりのシャルル・アズナヴールの自伝《Le temps des avants》だ。直訳すれば『過ぎた時間』といったところだろうか。にこやかに微笑むアズナヴールの写真が表紙を飾っている。その微笑にもつられて読みたくなる。
「彼にサインして貰おうとしたんだけど、カナダに行ってしまったんだよ」。エリックはそう言いながら本を手渡した。でも、アズナヴールと撮った写真を添えてくれた。音楽出版社ラウル・ブルトンで撮影されたものだ。シャルル・トレネやナナ・ムスクーリのポスターからそれと分る。
今日もこれからリハーサルがある。気を引き締めて明日からの本番に備えたいと思っている。