1月31日、第十代桂文治さんが亡くなった。急性白血病による腎不全が原因だそうだ。江戸弁の使い手がまたひとり僕たちの元から去った。寂しい限りだ。メディア各社は「歯切れいい語り口で人気」と、その芸風を端的に報じていた。
今年の正月も母の家で迎えた。1日の夜から2日の早朝にかけて、NHK総合で落語を特集していた。何人かの噺家が入れ替わり立ち代わり演じるなかに、文治師匠もいた。寄席にもしばらく行っていないし、TVでもあまり落語をやらなくなったので文治師匠の顔を見るのも久しぶりだった。ずいぶんと髪の毛が白くなったなぁ、と感じた。が、話しぶりは相変わらずだった。
文治師匠は酒呑噺のひとつ「禁酒番屋」を語った。
ある藩の者が酒でしくじった。それで殿様がみなに禁酒を申し渡す。が、酔っ払って藩屋敷に帰る者は減らない。で、屋敷の門前に番屋を設けて取り締まることにした。ある日、屋敷に住む近藤という大酒飲みの侍が、酒屋に一升の酒を届けるようにと注文する。持参した物の中身を番屋で問われ、酒屋は「水カステラでごさいます」と言って通ろうとする。が、役目の侍に見破られ、酒を飲まれてしまう。次は油屋と偽るけれど、これまた失敗。酒屋は二升の酒を取られて腹が収まらない。何とか仕返しをと、次に徳利に小便を入れて番屋に来る。またもや呼び止められ、「小便屋でござい」と返事する。今度も嘘を言って酒を邸内に持ち込もうとするのだと疑われたのだ。で、侍が確かめようと徳利の中身を茶碗に注ぐ…。
尾篭な話になりかねないところを、文治師匠はてきぱきとした語り口で笑わせた。大きな顔をする侍に一矢報いる庶民の姿を浮き彫りにして。支配権力へのささやかな抵抗に江戸っ子の反骨精神が光る。
2月7日、アダムス店主・早瀬かず椰さんのお通夜から帰って来て、桂文治さんの追悼番組が放映されることを知った。NHK「日本の話芸」の再放送だ。悲しい気分を少しでも紛らすことができるかもしれないと思い、見た。
「長短」という演題だった。マクラの部分で江戸弁について話していた。「“カッコいい”というのは大阪弁。江戸弁では“様子がいい”と言うんです」。なるほど。
江戸弁には商人言葉と職人言葉があった、という。「ありがとうございます」は典型的な商人言葉。昨今では「ありがとうございました」と言う人も増えている。が、商人というのはお客さんとの縁を大切にする。「『ありがとうございました』じゃあ縁が切れちゃう。縁をつなげようという思いが『ありがとうございます』なんです」。
いいねぇ、いいことをおっしゃる。これだから落語はためになる。商いの心まで教えてくれるんだから。
八っつぁん、熊さんなどが使うのが職人言葉。ちょいとぶっきらぼうな感じだけれど、気取りがなく、威勢がいい。「てやんでぇ、べらぼうめ」なんてのが有名だ。
「たらちね」では、そんな八五郎の元に大家の世話で嫁が来る。ところがこの女房、言葉が丁寧過ぎるのが欠点と言えば欠点。八五郎を起こすのにもこんな具合だ。「ああらわが君、(中略)御飯も冷飯に相成り候えば早く召し上がってしかるびょう存じ奉る。恐惶謹言」。
八五郎にしてみればカルチャーショックだろうなぁ。穏やかに起きられるんだろうか。で、女房の丁寧な言葉遣いに江戸っ子らしく洒落を返す。「飯を食うのが恐惶謹言なら、酒なら依って(酔って)くだんのごとしか」。「いよっ、八っつぁん」と声をかけたくなるねぇ。
余談をひとつ。落語をテーマにした実に面白いサイトがある。「落語検索エンジン ご隠居」(http://www.edo.net/goinkyo/main.html)。落語に関する雑学的知識の宝庫だ。
「文書変換 江戸っ子」というコーナーがユニーク。思いついた文を書き込んで「変換」キーをクリックすると、たちまち江戸弁になるというもの。試しにそのコーナーの説明文を変換してみると―
変換前
長いテキストだと変換に多少時間がかかります。
標準語で句読点が入った状態の方が正確? に変換されます。
そうとうガラの悪い江戸っ子です。
変換後
なげぇテキストだと変換に多少時間がかかりやす。
つまんねぇコトバでマルとテンテンがへぇったカタチの方がまぁまぁマシ? に変換されやす。
そうとうガラの悪い江戸っ子だぜ。
四角四面の文章をこいつで一発変換してみるのも楽しいと思う。ぜひお試しあれ。
文治師匠は弟子に「江戸落語をやるなら江戸弁を覚えるように」と言っていたそうだ。文治師匠に限らず、噺家は口のきき方にうるさい。三遊亭円楽師匠も「分りました」と言う代わりに「かしこまりました」と言え、と教えているらしい。まだ修行中の身でありながら「分る」などとは軽々しく言うな、ということなのだろう。
学校で教えないなら、こうしたいい日本語は落語や講談で覚えるしかなくなるんじゃないだろうか。
いま、子供たちの間で「寿限無」を覚えるのが流行っている、と聞いた。いい傾向だ。これだけに留まらず、どんどん落語に親しんでほしいものだ。
「日本の話芸」という番組では落語や講談が聴けて楽しい。始まりの画面で、以前は小沢昭一さんによる前口上が入ったものだけれど、いまはテーマ音楽だけが流れるようになった。どうしてなんだろう。
その前口上で小沢さんは「舌耕という言葉があります」と言っていた。舌耕。弁舌で仕事をすることを指す言葉であることを教わった。これまたいい言葉だ。
筆耕硯田という表現もある。筆で硯の田を耕す。文筆で身を立てることを意味する。僕も曲がりなりにも物を書くことを生業としているんだけれど、わが硯の田を耕すことはできているものやら。
シャンソン・フランセーズについて人前で喋ったり、文章を綴ったりして日々暮らしている。舌耕、筆耕という作業を通して、聴く人、読む人の心まで耕すことができたらいいな。桂文治師匠の落語で心を耕して貰った者のひとりとして、そう願ってやまない。
♪Petites Annoces♪
「ヴィヴ・ラ・ルプリーズ 2004」のお知らせ "VIVE LA REPRISE 2004"
・「ヴィヴ・ラ・ルプリーズ」はパリで毎年行なわれているシャンソン・フランセーズのコンクールです。10回目を数える今年も 、サントル・ド・ラ・シャンソン Centre de la chanson とサントル・ワロニー=ブリュッセル Centre Wallonie-Bruxelles が共催します。
[日時]2004年4月29日(木)・30日(金)
[会場]サントル・ワロニー=ブリュッセル Centre Wallonie-Bruxelles
46 rue Quincampoix 75004 Paris, France
[参加条件]18歳以上であればアマチュア、プロ、フランス人または外国人でも構いません。ただし、フランス語で歌うこと。次の課題曲をCDに録音してサントル・ド・ラ・シャンソン事務局に提出してください。
CDには3曲を収録してください。
・これまでにレコーディングされているシャンソンのレパートリー全体から1曲。
・未発表曲(レコーディングされていないもの)を1曲。
・「街」をテーマにしたシャンソンを1曲。
[CD提出期限]2004年4月2日(金)
4月29日(木)14h00から公開オーディション。
4月30日(金)20h30からオーディションに残った7名による決戦。第2部ではクロード・スメルのショーがあります。
[各賞]サントル・ド・ラ・シャンソングランプリ、ADAMI賞、SACEM賞、UNAC賞。
シャルルロワ・シャンソンビエンナーレ・ド・ブリュッセルからのパートナー賞。
観客賞が該当者に授与されます。
申込み用紙は1月末に発行します。詳しい情報およびCD送付先は下記サントル・ド・ラ・シャンソンまで。
Centre de la chanson http://www.centredelachanson.com
24 rue Geoffroy l'Asnier - 75004 PARIS
Tel. (+33)01 42 72 28 99 - Fax(+33) 01 42 72 92 19
contact@centredelachanson.com
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VIVE LA REPRISE 2004
Centre de la chanson et Centre Wallonie-Bruxelles presentent
VIVE LA REPRISE
10e edition du tremplin des interpretes
Les 29 et 30 avril 2004
au Centre Wallonie-Bruxelles
46 rue Quincampoix - Paris 4e.
Condition de participation
Le tremplin est ouvert aux amateurs et professionnels, de 18 ans et plus, francais ou etrangers chantant en langue francaise.
3 chansons sur CD
1 chanson issue de l'ensemble du repertoire enregistre
1 chanson inedite de creation
1 chanson sur le theme : La ville
Date limite de reception des dossiers : vendredi 2 avril 2004.
Auditions publiques le jeudi 29 avril a partir de 14h.
Finale (7 artistes) vendredi 30 avril a 20h30
suivie du spectacle de Claude Semal
Le jury decernera, le grand prix du Centre de la chanson,
le prix de l'ADAMI, le prix de la SACEM, le prix de l'UNAC
le prix des partenaires : Charleroi Chansons et Biennale de la chanson de Bruxelles
Prix du public
Dossier d'inscription sur demande fin janvier
Centre de la chanson http://www.centredelachanson.com
24 rue Geoffroy l'Asnier - 75004 PARIS
Tel.(+33) 01 42 72 28 99 - Fax(+33) 01 42 72 92 19
contact@centredelachanson.com