アンリ・サルヴァドールが逝ってしまった悲しみはいまも続いている。
TV局フランス2(
http://jt.france2.fr/)が葬儀の様子を流しているのを繰り返し見た。彼のシャンソンを愛し、冥福を祈りたい方は見てほしい。
〔*フランス2のニュースを見るには → トップページ、タイトルの右下に"VIDEO" というコーナーがある。そこに"8h"、"13h"、"20h" というニュース番組のタイトルが並んでいる。
そのうちの"13h(トレーズ・ウール)" か"20h(ヴァン・トウール)" をクリック。画面が変わったら、一番下にある"Les editions precedentes"(既報版)から「2月16日」の日付を選び、"Les obseques d"Henri Salvador"(アンリ・サルヴァドールの葬儀)をクリックする。"13h" では葬儀の始まる前の様子が、"20h" ではその後の模様を見ることができる。〕
ローラン・ドラウース Laurent Delahosse 記者 が案内役を務める"20h"。ニュースは、葬儀が営まれたマドレーヌ寺院から棺が出て来るシーンから始まる。
ニコラ・サルコジ大統領、モナコ公国のアルベール大公のほか、歌手仲間のエディ・ミッチェル、フランソワーズ・アルディ、リーヌ・ルノー、ミレイユ・マチュー、ローラン・ヴールズィ、ベナバールらの顔も見える。
インタヴューに答える歌手もいれば、黙って立ち去る歌手もいる。答えたのにTV局の都合でカットされたのかもしれない。
サルコジ大統領は足早に寺院を後にした。「結婚したばかりの女性歌手カルラ・ブルーニは一緒じゃないんですか」なんていう質問を投げかけられるのは嫌だ、という気持ちなんだろうか。
「バラを探せ」"Cherche la rose" や「優しい歌」 "Chanson douce"など、アンリ・サルヴァドールのヒット曲がマドレーヌ寺院前の広場に流れている。ミレイユ・マチューリポーターのはマイクに向かって言った。「ほら、何て素敵な声でしょう。彼はいま、天使と一緒に歌ってるのよ」。
「狼、雌鹿、騎士さん」"Le loup, la biche et le chevalier" というタイトルでも親しまれている「優しい歌」。「ママンが歌ってくれていた/優しい歌/親指をしゃぶって/眠りにつきながら聴いたものだ」と始まる。
広場に集まった多くのファンのなかに、このシャンソンが好きだという女性がいた。隣にいる母親をチラッと見ながら「ママンが歌ってくれたから。それにたくさんの想い出が背後にあるしね」と、好きな理由を語っているのも印象に残る。
数多くの花束に覆われた棺を乗せた霊柩車が、ペール・ラシェーズ墓地の門を入って行く。「エディット・ピアフのそばに埋葬された」とコメントがあった。お参りする墓がまたひとつ増えた。
前回の本欄でアンリ・サルヴァドールの自伝≪Attention ma vie≫(JCLattes, 1994)の表紙写真を掲載した。
そのなかの記述をいくつかを紹介しながら、彼のシャンソンの数々と人柄を偲んでみたい。
アンリ・サルヴァドールのステージ衣裳といえば、白のスーツがまず思い浮かぶ。第二次世界大戦の間に所属していたレイ・ヴァンテュラ楽団のメンバーが着用に及んだもの。その想い出を大切にして、その後もステージで着ていたのだそうだ。
2004年に行なわれたパレ・デ・コングレのライヴ・アルバム≪Bonsoir amis≫は僕の好きなディスクのひとつ。このジャケットでも、ムッシュ・アンリは白のスーツ姿だ。
以下、アトランダムに自伝から拾い出してみよう。いずれもアンリ・サルヴァドールならではのエスプリに富んだ言葉だ。
面白おかしい庶民だと、あいつはからかい好きだと言われる。ブルジョワだと、あいつにはユーモアがあると言われる。
Qunad un homme du populo est drole, on dit qu'il a de la gouaille. Quand c'est un bourgeois, on dit qu'il a de l'humour. ("Comment je suis tombe fou amoureux de Paname" p.57)
音楽には他のあらゆる芸術と同じように国境などない。あらゆる場所からやって来る影響でみずからを養うものだ。そして私にはたったひとつの判断基準しかない。すなわち、クオリティだ。
La musique, comme tous les arts, n'a pas de frontiere, se nourit des influences venues de toutes parts et je n'ai qu'un critere de jugement : la qualite. ("Mon amour de la langue franccaise " p.128)
なるほど、ジャズやロックンロール、ボサノヴァなど、いろいろなスタイルを取り入れて自分の音楽を作ったアンリ・サルヴァドールらしい考えだ。
では、歌に関してはどんな意見を持っているのだろうか。
ひとつのシャンソン(歌)はメロディーだけでできているのではなく、
歌詞でもできている。最良の場合、人はそれを詩と呼ぶのだ。
Une chanson, ce n'est pas seulement une melodie, mais aussi et a part egale, un texte que, dans le meilleur cas, on appelle poeme.
そしてポエジー(詩)は音楽とは異なり、さすらいの魂を持ってはいない。唯一の風景しか持ち合わせていないのだ。すなわち、みずからの国の言葉だ。
Et la poesie, contrairement a la musique, n'a pas une ame voyageuse, est capable d'un seul paysage : la langue de son pays.("Mon amour de la langue franccaise" p.130)
アンリ・サルヴァドールは英語、ポルトガル語も堪能だった。しかし、フランス語を愛していることは、上に挙げた章のタイトル「フランス語への私の愛」"Mon amour de la langue francaise" からも分ろうというもの。
もうひとつ、同じ箇所から引用しておこう。
フランスは確かに言葉遊びが最も好きで、シャンソンの歌詞が国民的な文学の重要な一部を成している国だ。そして人々は、この言語はあまりに古くて現代の音楽のリズムには合わない、アメリカ英語のイディオムに席を明け渡すべきだと私たちに信じ込ませようとしている。
La France est surement le pays ou l'on aime le plus jouer avec les mots et les textes des chansons sont une partie importante de la litterature nationale. Et on essaie de nous faire croire que cette langue est trop vieille, qu'elle ne s'adapte pas aux rythmes des musiques actuelles, qu'elle doit laisser la place aux idiomes americaines.
ジャズのスウィング感を体得しているアンリ・サルヴァドールだけれど、フランス語で歌うというスタイルを最後まで貫いた。その心意気やよし、である。
生と死についても、こんな省察を残している。
生とは死からの許可にほかならない。毎朝、愛想良く私たちにその延長をしてくれることに感謝しなければならない。私たちの肉体は私たちのものではない。神が私たちに貸し与えられ、ご自分に都合のいい時に取り戻されるのだ。
La vie n'est qu'une permission de la mort et chaque matin, il faut la remerecier de nous accorder gracieusement une prolongation. Notre corps ne nous appartient pas. Dieu nous le prete et le reprend bon lui semble.("Comment j'ai fait la manche dans les cafes" p.85)
死に関して、もうひとつ言及がある。
死は他のあらゆる瞬間と同じように、人生のひとつの瞬間にすぎない。ただひとつ褒め称えるべき点は、それが最後にやって来るということだ。
La mort n'est qu'un moment de la vie, pareil a tous les autres, et son seul merite est d'etre le dernier.
("Mon amour de la langue francaise" p.125)
僕の浅薄な言葉を付け加える必要もないだろう。最後の瞬間を迎えたアンリ・サルヴァドールを想いながら、素晴らしいシャンソンの数々に耳を傾けてその美味を味わいたい。「この命の果てるまで」"Jusqu'a la fin de ma vie"("Une chanson douce")。
Au revoir, Monsieur Henri...(ムッシュ・アンリ、さようなら…)
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