前回にひき続き、シャルル・トレネについて少し書いてみよう。僕の個人的な感想かもしれないけれど、日本ではこの偉大なる天才シンガー・ソングライターへの評価があまり正当になされていないように思えてならないから。
たとえば古賀力さんは、トレネのシャンソンに惚れ込んで、自分の経営する店に「ブン」"Boum" と名づけるほどのファンだ。 古賀さんはトレネの原詞をより深く理解したい一心からアテネ・フランセに通われた。友人たちからは「トレネ・フランセじゃないか」と言われたそうだ。 他にこうした例をあまり見かけないのはどうしてなんだろう。
一昨日、この欄で挙げたクリスティアン・ルボンの本《Charles Trenet "Applez-moi a 11 heures precises!"》(ed. Didier Carpentier, 2008)『シャルル・トレネ “11時きっかりに電話してください”』(ディディエ・カルパンティエ刊、2008年)から、フランス人のトレネ観を紹介してみたい。
118ページ以降に「他の人たちがトレねについて考えていること」"Ce que les autres pensent de Charles Trenet" という項がある。そこから引用させていただく。
サルヴァトーレ・アダモ:「彼はあらゆる世代を連合させた」。「彼の書くものには、 澄みきった簡潔さを保ったままのエレガンスがある」。
Salvatore Adamo : 《Il a federe toutes les generations.》 《Il a de l'elegance dans l'ecriture, tout en restant d'une simplicite limpide.》
シャルル・アズナヴール:「シャルルは彼の時代の、そしてあらゆる時代の人間だ」。 Charles Aznavour : 《Charles est un homme de son temps et de tous les temps. 》
ジャック・ブレル:「トレネがいなかったら、僕たちはみんな会計係だ!」
Jacques Brel : 《Sans Trenet, nous sommes tous des comptables!》
モーリス・シュヴァリエ:「…私は『喜びあり』で1936年に、37年だったかな、あな たに旅立ちのきっっかけを作ったことを幸せに、そしてちょっぴり誇らしく思います。それ以来、あなたが輝ける道を進んでいることを遠くから見ていますよ。(後略)
Maurice Chevalier : 《... Je suis heureux et un peu fier de vous donner le depart avec "Y a d'la joie" en 1937...37? Je vous ai depuis egarde de loin suivre votre route enchantee.》 〔*注:トレネが作詞・作曲した「喜びあり」を最初に歌ったのがシュヴァリエだった。また「輝ける道」はトレネ主演の映画のタイトル。〕
ジャン・フェラ:「シャンソン・フランセーズの偉大なる革命家…」
Jean Ferrat : 《Grand revolutionnaire de la chanson francaise...》
ジョルジュ・ムスタキ:「彼は才能の彼方まで行く…」
Georges Moustaki : 《Il va au-dela du talent...》
以上、アーティストたちによるトレネ評を引いてみた。身びいきと断じてしまうのは行き過ぎだろう。間違いなく彼らはトレネの影響を受けて自分たちのキャリアを始めているのだから。 アンリ・サルヴァドールの次の言葉も深い。
アンリ・サルヴァドール:「(彼の死は)フランスにとってばかりでなく、世界全体にとっての喪失だ…。彼はあらゆる歌手たちの父だった…」。
Henri Salvador : 《C'est une perte non seulement pour la France, mais pour le monde entier... Il etait le pere de tous les chanteurs...》
これほどフランス本国で絶賛されているシャルル・トレネ。シャンソン・フランセーズの礎石として、日本でももっと評価されていいんじゃないだろうか。
今日はこれから、銀座おとな塾SANKEI GAKUENで「フランス語でシャンソンを」の講座がある。 トレネが1970年に発表した「ヴァカンスの小鳥」"L'oiseau des vacances" を受講生の方たちと歌うことにしよう。 |