〔写真:昨年11月にリリースされたアルバム《Charles Aznavour & The Clayton-Hamilton Jazz Orchestra》(EMI 5099945859021)〕
85歳とは思えないほど声にパワーがある。そして、艶やかだ。高音もよく伸びる。歌手シャルル・アズナヴールは健在だ。
ジョン・クレイトン John Clayton(ベーシスト、作編曲者、指揮者)、サックスプレイヤーのジェフ・クレイトン Jeff Clayton、ドラマーのジェフ・ハミルトン Jeff Hamilton を中心とするジャズ・オーケストラ。
アメリカきってのビッグバンドとともに、アズナヴールがシャンソンをジャズ・フィーリングに乗せて帰って来た。
帰って来た、と書いたのには理由がある。そもそも、歌手としてのキャリアの初めの頃、アズナヴールはジャズっぽい歌い方をしていたからだ。
何はともあれ、ニュー・アルバムの曲目を記しておこう。
01.Fais-moi rever 夢見させておくれ
02.Je suis fier de nous (en duo avec Rachelle Ferrell)
私たちの誇り(ラシェル・フェレルとのデュエット)
03.Comme ils disent 人々の言うように
04.Des amis des deux cotes 両極の友人
05.A ma fille 失われた心
06.Le jazz est revenu ジャズが戻って来た
07.I've Discovered That I Love You (en duo avec Rachelle Ferrell)
帰り来ぬ青春(ラシェル・フェレルとのデュエット)
08.Il faut savoir それがわかれば
09.The Jam ジャムセッションのために
10.Je ne l'oublirai jamais 追憶
11.La boheme ラ・ボエーム
12.De moins en moins だんだんに少なく
13.Voila que ca recommence そらまた始まる
14.The Times We've Known (en duo avec Dianne Reeves)
二人の時(ダイアン・リーヴスとのデュエット)
お馴染みの曲が多いけれど新鮮に感じるのは、ジョン・クレイトンのアレンジによるところが大きい。これまでと異なる仕方で歌うということは、まったく別物のシャンソンを歌うことと同じだということを示そうとしているかのようだ。
ジャズ、R&Bの実力派女性シンガー、ラシェル・フェレルとのデュエットが2曲。「私たちのの誇り」(2)では、ラシェルがフランス語で歌う。
幼い頃からピアノとヴァイオリンを弾いていたラシェルは6オクターヴの音域を持ち、歌い出したとたんにリスナーの耳を惹きつけてしまう。だからといって、ひとりだけで盛り上がっていくわけではない。アズナヴールのヴォーカルとの間合いを計りながらのデュエットは心地良い。
「人々の言うように」(3)のイントロ。リズム・セクションが前面に出ていて緊張感を孕んでいる。これまでに聴いたことのないアレンジだ。次いでストリングスが打って変わって優しい演奏を繰り広げる。
「それがわかれば」(8)のイントロも意外だ。ピアノ1本で始まり、アズナヴールが静かに歌い出す。前作『ふたりの奇跡』(EMIミュージック・ジャパン TOCP-70648/49)では、ジョニー・アリデイ Johnny Hallyday によるロックンロールのノリに負けじと声を張っていたアズナヴールだったけれど、ここでは落ち着きを見せている。
「私は決して忘れない/過ぎていったものを/後悔はしない/たくさんの思い出が残ったのだから」"Je n'oublirai jamais/Ce que j'ai vu s'enfuir/Je n'ai pas de regrets/Car j'ai des souvenirs/En pagaille"
若き日の無軌道ぶりをこう歌った後に続く曲が、「ラ・ボエーム」。
これまた、画家としての成功を夢見ながらモンマルトルの屋根裏部屋でデッサンを繰り返す若い日々を思い返す内容だ。
まったく別の曲に聞こえるのが、ダイアン・リーヴスとのデュエット「二人の時」。原題は"Les bons moments"(素晴らしい瞬間)だが、ここではハーバート・クレッツマー Herbert Kletzmer による英語歌詞で歌われている。ダイアンのヴォーカルも味わい深い。口先だけでない、はらわたを持って歌っているのが分る。
アズナヴールのサイトを訪問することをお勧めしたい。
URL⇒
http://www.charlesaznavour-lesite.fr/ 下方にスクロールすると"Videos" というコーナーがある。本アルバムのレコーディング時の模様を動画で見ることができる。
録音はキャピトルレコードのスタジオで行なわれた。フランク・シナトラ Frank Sinatra、ディーン・マーティン Dean Martin、ナット・キング・コール Nat KIng Coleといった歌手たちが歴史に残る歌を吹き込んだ場所だ。
そうした歌手たちの写真がスタジオの廊下に飾られているのを見たアズナヴールは、カメラに向かって無邪気にこう言う。「いつか私の写真も飾られたりしてね。人は『おっ、フランス人もいる』なんて言うかな」。
また、他のビデオではレコーディングの風景も映し出される。アレンジャーで指揮もするジョン・クレイトン、ピアニストのジャッキー・テラソン Jacky Terrasson との真剣なやり取り。いい音楽を創るために、誰もが自分の持っている最良の部分を出し合っているのが見て取れる。
アズナヴールのサイトでは、CDとDVDが当たるキャンペーンも行なっている。
"Ggnez des CD et DVD de Charles Aznavour" と書かれている箇所をクリックすると画面が変わる。
アズナヴールの家柄を問う質問がある。「アルメニア」「スイス」「ロシア」から該当するものを選んでチェックを入れ、必要事項を書き込んでクリックするだけ。
今年の運だめしにいかが?